パッケージの中で
色鮮やかに輝くピンク色のビーツパウダー。
とあるレストランで目にし、
「このビーツでチークとかできないのかな?」
と思ってから一年経った今年の9月。
ふと、しまい込んであったパウダーを引っ張り出し
パッケージに記載されている農家さんに
電話をかけた。
電話口に出たのは農家の社長さん。
ビーツパウダーを使ってチークができるのか?
と思っていること、
他の野菜もパウダーにできるのか?
他にはどんな色がつくれるのか?などなど
ここ一年ふつふつと思っていたことを
話してみた。
すると社長さん、
「ウチは多種多品目の野菜を作っているから
色々な色のパウダーが出来ると思う。
もし私に協力出来ることがあれば」
と、こちらの突拍子もない投げかけを
好意的に受け取めてくれたのだ。
嬉しかった。
ただ、時は9月。
この時期は、とにかく収穫と出荷作業に追われ
農家さんは猫の手も借りたいくらい
猛烈に忙しい日々を送っているとのこと。
それならば!と
まずはお手伝いも兼ねて
早々に農家さんの畑を訪れることにした。
そして週末、知人の宿に一泊する手配をし
「お泊りだよ~!」と息子を説き伏せ
子連れで農家さんのある洞爺湖町へ向かった。
目的地は
佐々木ファームさん。
ファームは、背に羊蹄山、
国道を挟んだ眼下には洞爺湖という、
なんとも気持ちのいい
絶好のロケーションに立地していた。
畑に着くと、息子さんだろうか
中学生くらいの男の子が野菜を収穫している。
畑の外から声をかけると
お母さんは娘さんを迎えに行っていて
もうすぐ戻ってくるとのこと。
そして、間もなく車の音がして
軽トラから一人の女性が降りてきた。
日焼けした褐色の肌に
切れ長で意志の強そうな目。
凛とした佇まいのお母さんは
佐々木ファーム代表の佐々木マキさんだった。
挨拶もそこそこに
早速、ゴボウの選果作業のお手伝いへ。
収穫したゴボウを大きさ別に仕分けする作業、
と言えば簡単そうだが
実に!色々な工程があるのだった。
細~太いサイズに分けてくれる機械に
ひたすらゴボウを送り込んでいくのだが、
まず、コンテナに山盛りになったゴボウを
機械の台に移し、ゴボウの根元をカットするのに
適した位置に一本一本並べていく。
ベルトコンベアーに運ばれるゴボウの根元が
丁度いい位置でカットされるのを確認しつつ、
ゴボウをカットする刃の箇所に
どんどん溜まる根っこを鎌で取り除いていく。
根っこはあっという間に溜まり
ういーん!と機械がうなりをあげる。
大きさ別に仕分けされていくゴボウが
ある程度溜まったらコンテナへ。
太くてずっしりと重いゴボウ。
これが自然栽培で出来るのかい、、?
と感心しながら大きさに合わせて運び移す。
更に、機械のラインからはじかれた
岩のように太いゴボウや細~いゴボウを
仕分けする作業だ。
包丁で根元を切り落とし
大きさ別に分けていく。
私は子どもと一緒にこのパートを担当、
包丁片手にゴボウを切り落とし
仕分けする、を延々と繰り返す。
こういう作業をしていると思考が停止し
ゴボウと自分の境界線が無くなっていくような
無の境地になっていく感じがして、
延々と作業できてしまいそう。
ゴボウ化している母の傍ら
息子もせっせとゴボウを運ぶ。
と、選果作業はざっとこんな流れなのだが
この工程を何人かで分担し作業していくのだ。
沢山のコンテナに
まだまだ山のように積まれているゴボウ。
人が少ないときは、この作業を延々と
一人で何パートも見なくてはならない。
根気がいる重労働の作業なのだ。
作業しながら、マキさんがぽつりぽつりと
この立派なゴボウへの思いを話してくれた。
洞爺湖の大農家で
代々農業を営んできた佐々木ファームさん。
ゴボウは、長年に渡りファームの看板野菜。
でも、無農薬無肥料の自然栽培に切り替えてから
最初の一年こそ収穫があったけれど、
(土にそれまで投入してきた肥料が残っていた)
その翌年から、ずっとゴボウの不作が続いたとのこと。
それでも諦めずに
何年もかけて畑の環境を整えながら、
土の自浄作用を信じて
無農薬無肥料でゴボウを作り続けてきた。
そして今年。
生命力あふれる素晴らしいゴボウが出来たのだ。
太くてずっしりと重い!
佐々木ファームさんのゴボウ。
「ありがとうゴボウ」
という名前が付いている。
マキさんの言葉の一つ一つには、
ファームの会員さんに
やっとこのゴボウがお届けできることへの
喜びがあふれていた。
この日はファームも休日ということで
(マキさんは休日返上して休みはなさそうだけど)
このあとは、事務所でお茶をいただきながら
ファームの今までの話を聴かせてもらった。
ファームで採れた自然栽培の大豆を粉にした
大豆ティーを飲みながら。
ファームを切り盛りしながら
二児の母でもあるマキさん。
栄養価の高い大豆を手軽にとれたらと
ミルサーで粉にして飲用にしたとのこと。
大豆のお茶は体がポカポカし
作業の疲れが吹っ飛んでいく美味しさ。
佐々木ファームさんは
開拓者として洞爺湖に移り住んだ
マキさんの曽祖父が、
約25年の歳月をかけて
杉林だったこの地を農地にしたとのこと。
三代目のお父さんの後は
マキさんのお姉さん夫婦が後を継ぎ四代目になったが、
小さな息子さんを突然亡くしたことがキッカケとなり
今のような自然栽培の農法に切り替わったらしい。
と言えば一言で終わってしまうが、
ファームの運営をしていく中で
佐々木家の皆さんがそれぞれに
大変な苦労を経てきたことが
マキさんの言葉の端々から伝わってきた。
急激な変化には、強い痛みが伴うのだろう。
その後、お姉さん夫婦は農業を離れ淡路島へ移り住み、
スタッフとしてファームに携わってきた
マキさんが五代目となり
ファームを切り盛りしているとのことだった。
この日、ゆっくりマキさんから話を聴くことでき
それはとても貴重な時間となった。
また作業のお手伝いに来ることをしかと約束し
洞爺湖を後にしたのだった。
そして翌月。
前回よりも空気が格段に冷え込む洞爺湖を
再び訪れた。
今回は、息子はパパと留守番組で
ふらり身軽な一人旅である。
二日間ファームのお手伝いに入る計画だ。
ファームに着き、朝の朝礼に参加した後
沢山の野菜たちが貯蔵されている
巨大なアイスシェルターの中へ。
芽キャベツの選別と出荷作業のお手伝い。
それにしても、佐々木ファームさんのお野菜は
なんでこんなに艶々しているんだろう。
どのお野菜もビンビン!生命力があふれている。
これが、自然栽培の力なのだ。
ひとしきり作業したところで午前の休憩タイム。
なんと、賄いご飯つき!
午前の休憩ではいつも
畑の野菜をふんだんに使った賄いご飯を
スタッフ全員で食べるらしい。
元料理人のマキさんが作ったリゾット。
本当に美味しくて
疲れがまたまた吹っ飛んでしまった。
お腹がいっぱいになり
やる気スイッチもON!になったところで
再びアイスシェルターへ。
佐々木ファームさんは、
道内や東京のレストランへ野菜を出荷しているので
一件一件の注文に応じて野菜を梱包し
出荷作業をしている。
細かい注文に丁寧に対応しているので
人手もいるし時間もかかる。
雪が降るまでの間に収穫作業、野菜の選果作業、
そして出荷作業とやることは山のようにあり、
マキさんを筆頭にスタッフさんたちは
とにかくよく動きよく働く。
体を動かしお腹がすいてきたところで
先に事務所でなにやら作っているマキさんから
「お昼だよー!」と声がかかり、
お昼の休憩タイムへ。
なんと!ここはレストランか?!!
畑の採れたて野菜サラダとパスタ。
かぼちゃのポタージュ!(お花まである!)
とにかく野菜の味が濃くて美味しい!!
そして、ファームのスタッフさんは
本当~によく食べる。(私もだけど)
午前の休憩もしっかり食べてお昼もしっかり。
よく食べるからよく働くのか
よく働くからよく食べるのか。
土の上で働く人たちは、自然栽培の野菜と同じ。
生き生きと輝いている。
食べてお喋りした後は、ゴボウの選果作業。
前回の作業で流れはバッチリだ。
一緒に作業するマキさんのお父さんと息子さんの
微笑ましいやりとりを横目で見ながら
黙々とゴボウと向き合う。
本当に立派なゴボウに惚れ惚れしてしまう。
惚れ惚れついでに
思わずこんな写真を撮ってしまった。
ゴボウを持ってふざけているわけではなく
スタッフのスナちゃんと
どうしたらこのゴボウの凄さを伝えられるか、、
とあれこれポーズを変えて撮った中の一枚。
左がスタッフのスナちゃん。
なんだかお茶目な人で
初対面なのに妙に打ち解けてしまった。
真ん中の逞しい女性がマキさん。
本当に、人との出会いって不思議。
一年前にレストランで買ったピンク色の粉が
思わぬ出会いを導いてくれた。
ビーツパウダーが繋いでくれたご縁に感謝感謝!だ。
次の日のお昼ご飯。
マキさんの娘さんがカレーを作ってくれた。
じゃがいもと人参と玉ねぎの野菜カレー。
優しい味がしてすごく美味しかった。
野菜のチカラってすごいな。
楽しい時間にありがとう♪
カラーハルモニア
三木 沙織